目が覚めると、そこにあったのは知らない天井だった。
妙な息苦しさがある。視界に緑色のなにかが映る。程なくしてそれが人工呼吸器だとわかった。
どこだここ…少し思い出さなきゃ…
今日の午前9時、俺と母は帯広から札幌に向けて車で出発した。高速道路が出来たおかげで車でもJRとそれほど変わらない時間で着ける。到着予定は昼過ぎといったところか。
昨日夜更かしして、今朝父の出勤を見送るために早起きしたせいで出発直後から俺はかなり眠かった。無理に起きてる理由もなく、結局すぐに寝入ってしまった。
目が覚めてきた頃には車はすでに札幌市街を走っていた。寝ぼけまなこで俺が見たのは、交差点を右折するうちの車と、反対車線から来る…
俺が覚えているのはそこまで。そこから知らない天井までの記憶がない…
ふと視線を横にやると涙目の母と厳かな雰囲気の白衣が1人。彼らの話によれば、ここに至るまでの経緯はつまりこういうことだそうだ。
母は黄色信号のところで右折しようとした。そのとき反対車線に同じように焦る車があり、その車が速度を上げて直進してきたんだそうだ-うちの車に向かって。
運転席の母は軽傷で済んだが、助手席の俺はモロに衝撃を喰らった。意識不明の重体。すぐに救急車が呼ばれた。
そして近くの病院に搬送され、かれこれ4時間ほど起きず、そしてようやく起きた…ということだそうだ。
まぁ無事に生きてたし良かったじゃないかと俺は短絡的に思った。しかし母の表情は沈んだまま。
そしてようやく俺は違和感に気付く。
左脚がない。
視界がぐるぐるした。頭もぐるぐるした。受け入れられざる現実に吐き気が真っ先に応答した。
明日から陸上部の合宿、程なくして新入生を迎えて、1ヶ月後にはシーズンイン。怪我も治ってなんの憂いもないはずだった。思い描いてた未来が全て崩れ去った。
誰が悪い訳でもない。なにかのせいに出来る訳じゃない。でも、だからって、このやり場のない感情は、一体どこにぶつければいい?今までどんなストレスがあっても、走れば全て忘れられた。それがもはや叶わぬ夢。
今は少し落ち着いてきて、ひとまずこんな形ではありますがご報告を。
明日早起き出来るかどうか不安でしたが、それどころの話じゃない。今の状態でそもそも寮生活を続けられるのか、札幌を離れなければならないんじゃないか…
目線を上以外に向けられない。
下を向けばすぐに絶望が迫ってくる…
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