最近更新頻度たけぇな。しかもこっちばっか。
そして長文率の高さ。もうそういう気分なんだと思ってください。
今さらですが後輩に借りた「風が強く吹いている」読み終わりました。長かった。
ひょんなことから出会った寛政大学4年の清瀬灰二と同じく1年の蔵原走、そして竹青荘に住む陸上とは無縁の8人。ド素人10人が箱根に挑む―ってな話。長距離なんてホントに努力の種目だと思うので、それを1年でなんてホントに夢物語ですが、そこは小説として盛り上げどころつくんないとなんないから仕方ない。
この夢物語をホントに出来ちまうんじゃないかと思わせてしまう清瀬灰二の完成されたキャラが凄い。自身もかなりの実力を備えながら、部員の体調やメニュー、メンタル面までしっかり管理し、影の監督として素人軍団を箱根へと導く。見ててホントにカッコいいです。
そして1年にしてエースの蔵原走。ただ走ることが好きな彼は高校時代から日本有数のランナーだったが、部のしがらみに囚われ自分の走りを追求出来ない現実に決別し一度は競技から身を引く。だが清瀬との出会いによってまた選手として走ることを選ぶ。
見るものを魅了するしなやかな走り、ただ誰よりも速く走る、それ以外にはなにもいらない。陸上に対するまっすぐな思いが走の原動力となっています。
他にも個性豊かな寛政大学駅伝部メンバー、そして周りで応援してくれる人々、ライバルたち。それぞれの思いが箱根の舞台でぶつかり合います。
心理描写が細かいなぁと思いました。辛い練習に逃げ出したくなる気持ち、走ってる間にめぐる様々な思い、極限状態の中の恍惚、走が味わう「ゾーン」…このあたりの描写は自分も陸上に携わる身として心が弾みました。自分も走り出したくなる衝動に駆られるのですが、足と腰が許してくれません。
そして一番心に残ったのが、登場人物同士の会話に現れる「走ることへの問い」。
なぜ走るのか、走った先になにがあるのか…こういった問いに皆が葛藤し、そして自分なりの答えを求めて走る。蔵原走は最後に「走っていれば、いつかきっとわかる」とだけ言いました。
今まさに自分がぶつかっているこの問いには共感せざるをえませんでした。陸上を突き詰めていく上で避けては通れない道なのでしょうか。
走ることへの問い―清瀬の元チームメイトで、走のライバルとなる藤岡の問いと清瀬の答えが最も心に響きました。
「清瀬、俺たちは一体、どこまで行けばいいんだろうな。到達出来たと思っても、まだ先がある。まだ遠い。俺の目指す走りは…」
「でも、やめないんだろう?きみは、走るのをやめられない。ちがうか?」
藤岡の問いを自分に繰り返す、そして結局清瀬の切り返しは真理のように感じられます。
人間は不完全でありながら完全を求める。完全になりきれないから、ただひたすらに求める。それを向上心と呼ぶのだろう。しかしこのゴールのないレースを続けることに虚しさを感じる。それでも走るという行為に魅了されているから、結局また走り出してしまう。完全を求めて。
俺の中ではこの完全というのは「陸上選手としての完成」と言えるのかな。そしてそれは昨日書いた「生命の燃焼」「トラックに全てを置いてくること」によって達成される。それを求めて走ってるんだと思います。
まぁ高校に入ってから走れてませんけどね。
南高の陸上部員として過ごしたのが22ヶ月、うち怪我人としてのものが14ヶ月と言ったところ。高校陸上の6割は走ってないことになります。
走れないことに不満がないわけはない。走れない憤り、思いが叶わぬ辛さ、理解されようのない感情…でもこうなった原因は結局自分なんです。環境のせいでも先生のせいでも医者のせいでもない。自分自身の甘さなんです。例えば身の程を知らずに無理をした、無理をしたのにケアを怠った、辛い練習の後にあまり寝なかった、あるいは周囲に対する気配りや感謝が欠けていたという精神的な面もあるのかもしれない。自分の至らない点など無数にある。結局は自分の未熟さ故に招いた現実なのです。無責任になにかになすりつけていいものじゃない、自分で受け止めなければならない傷。
俺が陸上に注ぐ愛情は一方的すぎるのかもしれない。論理に傾倒しすぎている。蔵原走はただ走りたいから走っていた。本能による走り。論理と直観の二軸で陸上と向き合えたなら、もっとまっすぐ見据えられたら、あるいは愛情とやらも返ってくるのだろうか?―いや、そうじゃないな。先になにかがあるから走るんじゃなくて、走ることがあるから走るんだ…そこにある愛はアガペーのようなもののはず。
走りたいなぁ。走れればもうなにもいらないとすら思える。
なんて言うんだろうなぁ。趣味の範疇ではない、部活動の範囲も超えてる、競技としての枠も超えて、人生なんて陳腐な言葉で表したくない。陸上の神様は天邪鬼な俺の性格を知ってて怪我をもたらしたのだろうか、だとしたら大成功だ。会えない時間が愛を育てるとか誰かが言ったように、陸上に対する憧れとも欲求ともつかない感情は燃え上がるばかりだ。走りたい。走りたい。
清瀬は走に「速くなれ」とは言わなかった。
「強くなれ」―と言った。
俺も強くありたい。
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